nakaji art

我が心と身体が捉えた美について

カテゴリ: アート探訪

行ってまいりました。
メスキータ展_入口_東京ステーションギャラリー

まず驚いたのがギャラリー入口脇のラックに挿してあったフライヤー(チラシ)のデザインが5種類もあり、しかも表と裏に掲載されている作品が全て違うという力の入れよう。
このような点にも一人でも多くの人に展覧会に足を運んでほしいという主催者の意気込みが感じられます。今年2019年はメスキータ没後75年にあたり、日本初の本格的な回顧展となります。

以下がその素晴らしいフライヤー。紙質のざらつきも手に心地よく、印刷も鮮明で黒と白のコントラストがシンプルで美しい。
会場を訪れた際には是非お手にとってご覧ください。
メスキータ展チラシ01
メスキータ展チラシ02
メスキータ展チラシ03
メスキータ展チラシ04
メスキータ展チラシ05

サミュエル・イェスルン・デ・メスキータ(1868~1944)は、あまり日本人には馴染みのない作家だと思いますが、あの騙し絵で有名なM.C.エッシャーが師事し、生涯敬愛してやまなかったグラフィック・アーティストでもありました。ユダヤ人であったためにナチスのゲシュタポにより家族ともども逮捕され、アウシュヴィッツ強制収容所で生涯を閉じることとなります。戦争中、そのアトリエに残されていた膨大な作品群をエッシャーら友人達が必死に守り抜いたことにより今日私達が目にできる素晴らしい作品が失われることなく済みました。
その作品は木版画やエッチング、ドローイング、ペインティングなど多岐にわたります。
今回の展覧会は何といってもそのシンプルかつ繊細な木版画の創り出す黒と白の世界を堪能できる絶好の機会となります。
彫刻刀の作り出す線の強弱によって人物や動植物を実に細部に至るまで巧みに彫り分けていることに驚き、思わず時を忘れて見入ってしまいました。
どの版画も細部を意図的にデフォルメし、日本の浮世絵にも影響を受けていると言われている大胆なレイアウトにより観る者に強い印象を残します。初期のエッシャーの作品がメスキータの影響を受けていることにも納得がいきます。どの作品も一度目にしたらずっと観ていたいほど強烈な魅力を放っているのです。

版画とは別にまるで無意識の世界を描いたようなシュールなドローイング作品もメスキータのもう一つの魅力。向かい合う二人の人物達が印象的な作品が多いのですが、鑑賞者はその表情から様々な物語を想像して楽しむことができます。

会場の最後に以下のような撮影可能ゾーンがあります。
メスキータ展_撮影ポイント

会場を出た先にあるミュージアムショップでは、定番のポストカードに図録、ステッカー、チケットホルダー、トートバッグ、ノートなどのグッズが売られていました。
以下のポストカードを3点購入しました。
メスキータ展_グッズ_ポストカード


最後に東京ステーションギャラリー内の展示室途中にある美しいシャンデリアとステンドグラスもお見逃しなく。
東京ステーションギャラリー_シャンデリア


ご興味を抱かれた方は是非。
メスキータ展公式サイト:




行ってまいりました。
フェルメール展 2018 上野の森 入口

開催翌日の10月6日の9時30分からのチケットを事前に購入していたものの、土曜日かつ三連休初日ということもあり、おそらく開館前から長蛇の列ができるであろうと予測して早目に自宅を後にしました。
少し興奮気味にJR上野駅の改札を抜けると、美術館へ向けて自然に脚は小走りに。銀杏地帯をイワトビペンギンよろしく跳んで抜けると到着時刻は午前8時40分過ぎ。
開館50分ほど前でしたが既にかなりの方々が列をつくって並んでいました。

列の最後尾に並んで持参した本を読みながら開館時刻を待つことに。
しばらくすると、係員の方が列の最後尾にやってきて、入場を待つ人々にチケットの確認を行いました。

その後はあれよあれよという間にどこからともなく人々が集まり、私の後ろにどんどんと列をつくっていきました。園内の道沿いにどこまで続いているのか一見しては分からないくらいの長蛇の列です。
開館は9時半なのですが、この行列をつくる人々がすべて美術館へ収まるのは一体いつになるのだろうと心配になってしまいました。このときの時刻はまだ9時10分を少し回ったところ。少し早目に開館して入場させてしまった方がいいのではと思ったのですが、あくまで9時半開館のルールは厳守の様子。ジブリ美術館などは各入場時刻ごとに行列のできる30分くらい前から入場が開始されるのですが、その辺、上の森美術館は融通が利かないようです。

9時半になるとようやく行列が前に進み、館内へ。
入口で下記のような小冊子(鑑賞ガイド)と特典のブックマーク(しおり)を受け取りました。
フェルメール展 2018 ガイド 特典ブックマーク

その後は音声ガイド(既にチケット代に含まれている)を受け取ると階段を上がって2階へ。

ここで僭越ながら鑑賞のポイントを。
お目当てのフェルメール作品が一堂に介された「フェルメール・ルーム」は1階の最後の展示室になります。
まずは入館したら2階の展示は素通りして真っ先に1階の「フェルメール・ルーム」へ直行しましょう。
そうすれば混雑を避けて「フェルメール作品」を最前列で思う存分鑑賞できます。
私が「フェルメール・ルーム」に入った時はまだ数名しか観覧者は絵の前にいませんでした。
音声ガイドは後で聴けばいいと思い、とにかく作品と向き合う至福の時を優先しました。
それにフェルメール作品に宿る神秘的な静けさを体感するためには、はっきり言ってガイドの音声など耳障りなだけ、邪魔でしかありません。
まずはそっと息をひそめて作品と対峙しましょう。

フェルメールを細部まで存分に堪能したいなら、モノキュラー(単眼鏡)は必須です。
私はずっと下記の製品を美術鑑賞の際に持参しています。小さいので携帯に便利ですし、レンズもクリアです。


モノキュラーで確認して頂きたいのはフェルメールの光の描き方と驚異的ともいえる物体の描き込みです。これは図録でもポストカードでも決して体感できないものです。まさに実物を目にした者だけが味わうことのできる至福です。

例を挙げますと、《牛乳を注ぐ女》のテーブルの上に置かれた籠に落ちる窓からの日光が白い絵の具の粒を置くことによって表現されている点です。さらに思わず息をのむほどに見事なパンの質感。このパンのざらつきも細かい粒子を描き重ねることによって表現されています。そして壁の傷まで表現するこだわり。しかし絵を全体としてみると決定的ともいえるレイアウトの巧みさにより、使用人が牛乳を注ぐという日常のありふれた場面が何とも言えない静寂と神々しさで輝いています。フェルメール・ブルーとも称されるラピスラズリという鉱石から作る絵の具の時を越えた発色の美しさも是非ご堪能ください。
牛乳を注ぐ女 2018 フェルメール展 上野の森

フェルメール作品をひと通り鑑賞し終えたあたりで、気がつくと鑑賞者が次々と流れ込み、絵の前に人だかりができ、はかなくも短い至福の時は終わりを告げていました。

ここでふと疑問がわきました。
たしか今回は9点のフェルメール作品が展示されるはずでは?
どう数えてみても壁には8点しか見当たりません。
実は現時点(2018年10月6日)では展示されていない残りの1点《取り持ち女》は2019年1月9日からの公開予定。つまり9点公開といっても全作品をコンプリートするためには会期中にもう一度、その1点だけを観るために決して安いとは言えないチケットを再度購入して再訪、あの列に並ばなくてはならないという仕様になっています。はっきり言ってアコギです……。
しかも巡回する大阪展には大阪展のみの展示作品《恋文》があり、今回来日するすべての作品を観たい方は大阪にも遠征しなくてはなりません。何だかなあ……。

……とちょっとがっかりしながら、2階に戻り、フェルメール以外の17世紀オランダ絵画を鑑賞し、最後はグッズ売り場へ。

定番のポストカードを購入しました。
フェルメール展 2018 ポストカード02
フェルメール展 2018 ポストカード01

さらに図録を購入。豪華化粧箱仕様で、分厚く、読み応えありです。
フェルメール展 2018 図録 カタログ



ご興味を抱かれた方は是非。

フェルメール展
https://www.vermeer.jp/






昨年の5月に訪れたパリでの美術探訪をまとめて、この度、電子書籍(Kindle版)として出版致しました。
以下の画像かタイトルをクリック頂くと、Amazonの販売ページへとジャンプします。



ご存知の方も多いと思いますが、
Kindleの電子書籍はスマートフォンやタブレットでも専用のアプリをインストールすれば読むことができますので、
ご興味を抱かれた方はご購入頂ければ嬉しいです。

昨年の旅から帰国後に、
こんな「美術館ガイド」があったらパリ旅行がもっと楽しくなるのでは……
と、考えながら本書を執筆しました。


目標にしたのは「パリ旅行に携帯したい最小・最軽量の『美術案内』」ですが、
果たして読者の皆さまにご満足いただけますことやら……。

以下のYouTubeチャンネルにてブック・トレーラー(本の紹介)を公開しておりますので、
よろしければこちらも是非ご視聴ください。




行ってまいりました。
建仁寺 両足院 若冲 特別公開 チラシ

京都国立博物館で12月13日より始まった特集展示「生誕三百年 若冲展」の観覧をメインに据えつつ、若冲ゆかりの地を訪ねた今回の旅。

東海道新幹線 車窓 富士山

東京駅より午前8時ちょうどの東海道新幹線に乗って定刻通りに京都に到着すると、
地下鉄烏丸線に乗って今出川駅にて下車。
まず向かった先は相国寺内にある承天閣美術館です。

相国寺 正門 若冲 承天閣美術館

承天閣美術館 若冲 生誕300年 後期 案内

承天閣美術館 入口 若冲 生誕300年 看板

承天閣美術館 入口 若冲 生誕300年

入口で靴を脱いで下駄箱に収め、靴下のまま絨毯の上を歩きながら館内を観覧するというのは新鮮な体験でした。
チケット売り場の脇には御香が焚かれており、寺内にある美術館なのだなと実感します。
館内の撮影はNG。

展示室は第一と第二のふたつだけですが、室内は近代的で空調が行き届き、清潔です。
第二展示室へとむかう途中の廊下の窓から見える庭園の緑も美しい。
私が訪れた時は観覧客もまばらでとてもゆったりした気持ちで静かに絵と向き合うことができました。

第一展示室に展示されていた若冲作品は、《牡丹百合図》、《伏見人形図》、《竹虎図》などでした。
若冲お得意の「筋目描き」を駆使した墨絵の魅力を存分に堪能できます。
若冲 承天閣美術館 名作 はがき

第二展示室には若冲が鹿苑寺大書院に描いた障壁画が保管・展示されています。
入口を入ると、まず障壁画の大きさと迫力に圧倒されます。
強すぎずやわらかい照明の当て方も行燈の灯を思わせ、絵を引き立てていました。
保存のために仕方ないとはいえ、大きなガラスケースの奥に絵が設置されているために
ガラスが反射して所々少し見辛いのが残念。

《葡萄小禽図床貼付》は葡萄の枝葉や蔓の描き方が実に洒脱で、一見大胆な勢いに任せながらも若冲特有の繊細な筆使いが光ります。
左側の飾り棚による壁面の窮屈さを逆に葡萄棚に見立てたことで作品全体に奥行きが生まれています。
よく観ると、葡萄の実の一粒一粒が微妙な濃淡を使って丁寧に描き分けられており、墨絵でありながら
瑞々しい葡萄の艶と色合いを想起させます。
鹿苑寺大書院障壁画 若冲 承天閣美術館
芭蕉に月が描かれた障壁画《月夜芭蕉図床貼付》の方は、日本の月夜というよりはどこか南国を思わせるような異国情緒を感じさせる不思議な作品となっています。

若冲の肖像画も展示されていましたが、こちらは明治期に想像によって描かれたもの。
真の若冲の姿は謎のままということですね。
一体どのような顔をしていたのか、そしてどのような体勢と筆使いであれほどの緻密な絵を描いていたのか、
興味は尽きません。

障壁画の間を抜けて寺の至宝である茶器や不動明王像(重要文化財)の脇を通り、展示室を奥へと進むと、今回の展示の目玉ともいえる初公開作、《鸚鵡牡丹図》が現れました。

承天閣美術館 若冲展 後期 チラシ

このとき、幸いなことに作品の前には誰も立っていませんでした。
さっそく懐から単眼鏡(モノキュラー)を取り出して若冲特有の高精細な描写を楽しみます。
白いレース編みのような繊細な線が無数に走る羽の描き方はまさに若冲ならではです。
単眼鏡を絵の各部に向けながらその神がかった描写力に酔いしれます。
この作品とこうして向き合えただけでも京都まで来た甲斐がありました。

ミクロの視点だけではなく、マクロの視点から作品全体を眺めても、くすんだ背景に鸚鵡の白と牡丹の葉の緑、花弁の紅が互いに響き合い、画面全体が鮮やかに輝くばかりです。若冲の色彩感覚の確かさが改めて実感されます。

その他の展示作品としては、《群鶏蔬菜図押絵貼屏風》、《菊虫図》、《松亀図》など。
《群鶏蔬菜図押絵貼屏風》に描かれた大根の上に乗って羽を左右に広げて居丈高なポーズをとる鶏の姿とその得意げな表情に我々人間社会の風刺を見たのは私だけでしょうか。

《松亀図》の亀甲を単眼鏡で観てみると、細かい文様が筋目描きによって美しい層を為していることが分かります。

《菊虫図》も花の細部へと単眼鏡を向けると蟷螂の他に茎や葉のあちこちに小さな蟻の姿を確認できます。
さすが若冲。細部の描写まで妥協は見られません。


ひと通り作品を観覧し終えた後はチケット売り場脇のグッズコーナーへ。
封筒入りの絵はがきセット、《鸚鵡牡丹図》を印刷した竹のはがき、そしてこちらも竹でつくられたマグネットを購入しました。
鹿苑寺大書院障壁画 はがき 解説付き

承天閣美術館 若冲 グッズ 竹はがき マグネット

承天閣美術館を後にすると、寺内の墓所にある若冲の墓へお参りしました。
こちらの墓には若冲の遺髪が納められており、その亡骸は晩年に身を寄せた石峰寺の墓に土葬されたということです。
相国寺 若冲 墓 藤原定家

写真を見てもお分かりの通り、若冲の左手に並ぶ足利義政と藤原定家の墓もまた凄いですね(本当の墓かどうかは別として)。
墓所には幕末に命を落とした長州藩士達も埋葬されています。

相国寺 若冲 墓 碑文

若冲の墓石の裏側です。
墓石には生前親交のあった大典和尚による若冲の生涯を要約した碑文が刻まれています。
経年による汚れや苔がはり付いていて所々よく読めませんが、この碑文が若冲研究の第一級資料となっています。

相国寺を後にすると、地下鉄烏丸線に乗り、再び京都駅へ戻ってきました。
さらにJR奈良線に乗って二駅先の稲荷駅にて下車。
伏見稲荷神社の巨大な鳥居を横目に見送りつつ駅前通りを右手へ。踏切を渡ります。
スマートフォンの地図を片手に進むと、やがて道路上に下のような標識が見えてきます。

石峰寺 案内 標識 京都 若冲

表記通りに進むと、石峰寺の入口の階段が見えてきました。
階段脇には「五百らかん」と刻まれた石碑とお寺についての解説の記された立て札が。

石峰寺 入口 階段 京都 若冲

石峰寺 表札 京都 若冲 五百羅漢

解説にもあるとおり、天明の大火により被災し、家を失った若冲はやがてこの石峰寺に身を寄せ、ここに庵を設けて終の棲家とします。晩年もその創作意欲は衰えることなく、寺内の裏山に自らの下絵をもとにした一千体を超える石の羅漢像や仏像を造って配置し、ブッダの誕生から死までの壮大な物語を表現しました。
天然石に最低限の加工を施して石像としているために風化が進み、今では530体ほどを数えるのみとなっています。仏像とはいえ、風雨に穿たれ、苔生し、自然へと還っていくことこそまさに仏教の説く諸行無常、輪廻転生と考えていたのでしょう。

階段を上がると優美でいてどこか可愛らしいかまくら型の朱塗りの門が見えてきました。

石峰寺 門 入口 京都 若冲

門の脇には立て札があり、五百羅漢像の写真撮影およびスケッチはご遠慮願うとのこと。
がっかりしつつも気を取り直して門をくぐります。

門をくぐって左手の家屋が受付になっており、そこで拝観料の300円を支払い小冊子を受け取ります。
そこから先に進むと細い道が左右に分かれています。「伊藤若冲の墓」の表札にしたがって右手の坂を上がると墓地となっており、その見晴らしの良い坂の中腹に立つ墓石の下に若冲の亡骸が眠っています。
墓の隣りには絵師として生涯を全うした若冲らしく筆塚も建てられています。

石峰寺 墓 筆塚 京都 伊藤若冲

石峰寺 墓 京都 伊藤若冲

石峰寺 墓 筆塚 京都 若冲

お墓のお参りを済ませると左手の道を上がります。
道の先は小山の中を通る一本道となっており、左右の林の中に埋もれるように群れ立つ石の羅漢像達に導かれながらブッダの誕生から死までを辿ります。羅漢像はどれも皆、実に個性的かつ豊かな表情をしており、思わず笑ってしまうほど滑稽で愛くるしい表情の羅漢もいました。拝観者は私の他には誰もいませんでした。誰もいない静かな空間で、木々が風にそよぐ度に揺れる木漏れ日をその額に映す苔生した羅漢像を眺めていると、いつしか心が休まり、森羅万象の生々流転、宇宙の始まりと終わりなど、仏教という一宗教をも超越した壮大な時空と一体となっている自分を想起しました。
若冲が心に抱き、その人生の最後に辿り着いたであろう創作の真の意味がほんの一瞬ですが垣間見えた気がしました。


羅漢像を拝観した後は受付にて石峰寺オリジナルの御朱印帳を購入。御朱印も頂きました。

石峰寺 御朱印帳 表紙 若冲

石峰寺 御朱印帳 御朱印 若冲

若冲の命日である9月10日には毎年、慰霊祭が行われ、その際にお寺の所有する若冲の墨絵が公開になるそうです。そのときにまた伺いたいと思います。

石峰寺を後にすると、再び京都駅に戻ってきました。
そのまま京都国立博物館にむかいたいところですが、手荷物が邪魔なのと一服したいこともあり、少し早いですが、駅前のホテルにチェックインしました。
部屋に荷物を置いて、シャワーで汗を流してリフレッシュした後、単眼鏡をポケットに入れ、手ぶらで博物館へとむかいます。

バスに乗るのも億劫なので、博物館まで歩いてみることに。
少し距離はありましたが、夕暮の京の街は風情があって楽しめます。
彼方に紅葉した山が見えるのも東京都心にはない景色ですね。
夕闇の迫る加茂川も美しい。

加茂川 京都 冬 夕暮れ

さて、博物館に到着しました。

京都国立博物館 若冲 生誕300年 特集展示

京都国立博物館 若冲 生誕300年 特集展示 外観

来訪した日は土曜日。
京都国立博物館は毎週金・土曜日は夜間延長により午後8時まで開館していますので、
作品をゆっくり鑑賞したい方はおすすめです。
館内の撮影はNG。

入口を入るとインフォメーション・デスクの上に置かれていた「若冲展」のチラシを手に一路、展示室を目指します。

生誕300年 特集展示 若冲 チラシ

2017年の干支は酉ということで、若冲作の他にも鳥を描いた絵画が展示されていました。
雪舟の描いた《四季花鳥図屏風》も見事な出来栄えでしたが、やはり若冲の描く鶴に比べると美しくはあるのですがどこか形式に流れ、生命の息吹や躍動が弱いと感じます。その原因はやはり若冲特有の線の一本一本にまで自らの生命を吹き込んだかのような執拗なまでの羽や脚の細密描写に比べ、雪舟の描く鶴は細部へのこだわりを持たず全体のバランスを重視して描かれているためだと思われます。
まあ、好みの問題ではあるのですが、若冲の細密描写に目が慣れてしまうと、雪舟ほどの大家といえどどこか見劣りしてしまうのは仕方がないのかもしれません。

2016年の4月に行われた東京都美術館の若冲展が《動植綵絵》をメインに据えた代表作目白押しだったのに対し、今回の京都国立博物館の展示は墨絵をメインにしていました。
一見すると華やかさという点で劣るようにも思えますが、伊藤若冲という絵師の作風の多彩さと奥深さを存分に楽しむことのできる展覧会となっていました。

館内はそれほどの混雑もなく一点一点の絵画をじっくり堪能できます。
東京展があまりの盛況で4時間待ちという大混雑だったために展示替え後の再訪ができず、見逃してしまった《果
蔬涅槃図》もこの機会に思う存分観ることができました。

《百犬図》も一頭一頭、その愛くるしい表情を楽しむことができます。


先ほど訪れた石峰寺を若冲が描いた幻想的な墨絵も展示されています。
実際の寺の風景と比べてみると面白いです。

本邦初公開となる《六歌仙図押絵貼屏風》も必見です。
在原業平や小野小町など名だたる歌人達の特徴を見事にとらえ、大胆かつシンプルに墨書きされています。
何とも言えない漫画的な滑稽さがただよい、思わず笑ってしまいました。

《蝦蟇河豚相撲図》にも見られるように、若冲という人物は孤高の天才というよりはとてもひょうきんな一面も持ち合わせていた人物であることが作品を通して伝わってきます。

観覧後はミュージアムショップにて図録を購入。
東京展に比べるとページ数は少ないですが、読み切るにはちょうど良いサイズではないでしょうか。
生誕300年 特集展示 若冲 図録


さて、「若冲ゆかりの地を訪ねて京都へ その①」はここまでです。

後半は次の「その②」へと続きます。


ちなみに今回の旅では新幹線の中で下記の書籍を予習がてら読みました。
文庫サイズながら《動植綵絵》もカラーで収録されているのでお勧めです。

若冲 (講談社学術文庫)
辻 惟雄
講談社
2015-10-10



下記の大型本2冊をご紹介。値は張りますが、どちらも印刷は素晴らしい出来栄え。
本物は所有できないので、こちらで若冲の高精細筆致を存分に堪能するのも手かと……。

伊藤若冲 動植綵絵 全三十幅
東京文化財研究所
小学館
2010-01-25



伊藤若冲大全
伊藤 若冲
小学館
2002-11

「若冲ゆかりの地を訪ねる旅」の2日目。
早朝の錦市場、若冲の生家跡からスタートです。
京の台所とも称される錦市場で若冲は青物問屋の長男として生を受けました。
今現在、その生家はなく、跡地に下の写真のような看板が設置されています。

錦市場 伊藤若冲 生家跡 看板

錦市場 伊藤若冲 生家跡 看板02

錦市場 伊藤若冲 生家跡 解説

さて、それでは市場の奥へと入ってみましょう。
入口にも若冲の絵を基にした大きな横断幕が下がっています。
若冲生誕300年を祝っている様子。

錦市場 アーケード 商店街 若冲 生誕300年 入口

カラフルなアーケードが美しいですね。

錦市場 アーケード 商店街 若冲 生誕300年

頭上には若冲の生誕300年を祝う旗が掲げられています。

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 10

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 09

まだ朝が早いということもあってどの商店にもシャッターが下りていました。
そのシャッターにはなんと若冲の名作の数々が。
若冲の描く動植物が歴史ある商店街の景色に見事に馴染んでいました。

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 19

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 18

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 08

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 17

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 07

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 06

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 16

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 05

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 04

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 15

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 14

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 13

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 12

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 03

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 11

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 10

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 09

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 07

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 06

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 05

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 04

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 03

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 02

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 01

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 02

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年

商店街の突きあたりには鳥居がありました。
錦天満宮の入口です。

錦天満宮 京都 鳥居

よく観ると鳥居が左右の建物の壁にめりこんでいます。
たとえ神社の鳥居であろうと自分達の土地を譲ることはありません。
少ない土地を最大限に有効活用しようとする商人達の逞しい精神を感じさせます。

錦天満宮 京都 鳥居 ビル めりこむ 左

錦天満宮 京都 鳥居 ビル めりこむ 右

錦天満宮 入口 京都


錦市場を抜けると、そのまま徒歩にて宝蔵寺へと向かいます。
その途中にある坂本龍馬・中岡慎太郎遭難の地(近江屋跡)を訪れました。

坂本龍馬 中岡慎太郎 遭難 近江屋 跡02

坂本龍馬 中岡慎太郎 遭難 近江屋 跡

その跡地も現在ではかっぱ寿司になっています。
時代の流れを感じますね。

坂本龍馬 遭難の地 かっぱ寿司 近江屋跡

近江屋跡を通過し、そのまま河原町通を直進した後、交差点を左折し、細い通りをさらに進むと宝蔵寺に到着。
午前10時から開門と同時に一日限定40冊というオリジナル御朱印帳が販売されるとのことでしたが、
驚くことに午前9時を少し過ぎた時点で既に15人ほどの行列ができていました。
並ぶ場所がちょうど日陰になっているせいか並んでいると深々と体が冷えてきます。
冬場に1時間以上並ぶのは肉体的にちょっとキツイかもしれません。
それでもどうしても御朱印帳を手に入れたいという方は、防寒対策およびなるべく直前にトイレを済ませておくことをおすすめします。
御朱印帳の販売数は日によって変動があるので、来訪する予定の前日に宝蔵寺のWebサイトにて確認をお忘れなく。

午前10時になると開門となり、並んでいた人々が次々と寺内へ入っていきます。
御朱印帳の他にも若冲作品をモチーフにしたトートバッグやTシャツ、髑髏を模った数珠などのグッズが売られており、
「うーむ……商魂逞しいというか、若冲のおかげでお金が儲かって住職は笑いがとまらないだろうな……」と何とも複雑な気分に。
これらのグッズがミュージアムショップで売られている分には違和感はないのですが……。
まあ、現代におけるお寺の経営もひとつのビジネスととらえれば違和感はないのかもしれません。

とはいえ、せっかく寒い中、時間をかけて並んだので何も購入せずに帰るというのももったいなく感じ、御朱印帳を購入しました。購入した時点で既に中には御朱印が押されていました。

宝蔵寺 御朱印帳 若冲 表紙

宝蔵寺 御朱印帳 若冲 御朱印 生誕300年

寺内には若冲親族の墓もありますので参拝をお忘れなく。

宝蔵寺 若冲親族 墓02

宝蔵寺 若冲親族 墓01


宝蔵寺を後にすると、徒歩にて建仁寺へ。
両足院にて冬の特別公開として伊藤若冲筆《雪梅雄鶏図》が期間限定で公開されています。

建仁寺 両足院 若冲 特別公開

室内の撮影は残念ながらNGですが、庭を撮影することはOKでした。

建仁寺 両足院 若冲 特別公開 庭03

《雪梅雄鶏図》はガラスの覆いもなく、室内の床の間に掛けられていました。
絵の傍には係員が立っています。
じっくり絵を鑑賞しようとしたのですが、この係員の方が思いのほかおしゃべりで、
「枝にとまるあの鳥はウグイスだと思うか?」とか「あの花は椿だと思うか?」などといちいち話しかけてきて
その度にスマートフォンでグーグル検索した実物の写真を見せられ、
とても集中して絵を観るということができなかったのはとても残念でした。

若冲の絵と向き合う際は、その絵が自然界に実在する何を精確に描き表しているかなどは大した問題ではないはずです。
若冲の絵はその余りの高精細な筆致のために勘違いされることも多いのですが、必ずしも森羅万象を精確にリアルに写し取っただけの模写ではありません。
そこには意識的にせよ無意識的にせよ若冲というフィルターを通した彼特有のアレンジが必然的に挿入されています。
ただ素直に絵と向き合い、画狂とも言い得る若冲の尋常ならざる筆致に純粋に酔いしれれば良いと私は思っています。

「私はガラスの代わりにここに立っている」と係員の方はなぜか得意げに仰っておられましたが、
ガラスの方が余計な私語をしない分、はるかにマシだと思いました。
もう少し鑑賞のマナーを弁えた方が係員として絵の傍に立たれることを希望します。
そのようなことを口に出して喧嘩をするのも大人気ないので早々に退散しましたが……。


さて、若冲ゆかりの旅も終りに近づいてきました。
若冲とは関係ありませんが、彼が生きていたらさぞかし興味を惹かれたであろう施設、京都水族館へ。

京都水族館 入口

何といってもオオサンショウウオの水槽は必見です。
若冲ならこの水槽を眺めて果たしてどのようなオオサンショウウオを描いたことでしょうか。

京都水族館 オオサンショウウオ

若冲の《動植綵絵》中にある《群魚図》も、これらの生きて泳ぐ魚達を実際に目にしたなら
もっと違う絵になっていたかもしれません。

京都水族館 館内02

京都水族館 館内01


ご興味を抱かれた方は是非。


今回の旅で訪れた「生誕300年 若冲展」が下記の雑誌にて特集されています。
付録には今回観覧した両足院の《雪梅雄鶏図》のクリアファイルが付いているので購入はお早目に。




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