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我が心と身体が捉えた美について

カテゴリ: 伊藤若冲

行ってまいりました。
建仁寺 両足院 若冲 特別公開 チラシ

京都国立博物館で12月13日より始まった特集展示「生誕三百年 若冲展」の観覧をメインに据えつつ、若冲ゆかりの地を訪ねた今回の旅。

東海道新幹線 車窓 富士山

東京駅より午前8時ちょうどの東海道新幹線に乗って定刻通りに京都に到着すると、
地下鉄烏丸線に乗って今出川駅にて下車。
まず向かった先は相国寺内にある承天閣美術館です。

相国寺 正門 若冲 承天閣美術館

承天閣美術館 若冲 生誕300年 後期 案内

承天閣美術館 入口 若冲 生誕300年 看板

承天閣美術館 入口 若冲 生誕300年

入口で靴を脱いで下駄箱に収め、靴下のまま絨毯の上を歩きながら館内を観覧するというのは新鮮な体験でした。
チケット売り場の脇には御香が焚かれており、寺内にある美術館なのだなと実感します。
館内の撮影はNG。

展示室は第一と第二のふたつだけですが、室内は近代的で空調が行き届き、清潔です。
第二展示室へとむかう途中の廊下の窓から見える庭園の緑も美しい。
私が訪れた時は観覧客もまばらでとてもゆったりした気持ちで静かに絵と向き合うことができました。

第一展示室に展示されていた若冲作品は、《牡丹百合図》、《伏見人形図》、《竹虎図》などでした。
若冲お得意の「筋目描き」を駆使した墨絵の魅力を存分に堪能できます。
若冲 承天閣美術館 名作 はがき

第二展示室には若冲が鹿苑寺大書院に描いた障壁画が保管・展示されています。
入口を入ると、まず障壁画の大きさと迫力に圧倒されます。
強すぎずやわらかい照明の当て方も行燈の灯を思わせ、絵を引き立てていました。
保存のために仕方ないとはいえ、大きなガラスケースの奥に絵が設置されているために
ガラスが反射して所々少し見辛いのが残念。

《葡萄小禽図床貼付》は葡萄の枝葉や蔓の描き方が実に洒脱で、一見大胆な勢いに任せながらも若冲特有の繊細な筆使いが光ります。
左側の飾り棚による壁面の窮屈さを逆に葡萄棚に見立てたことで作品全体に奥行きが生まれています。
よく観ると、葡萄の実の一粒一粒が微妙な濃淡を使って丁寧に描き分けられており、墨絵でありながら
瑞々しい葡萄の艶と色合いを想起させます。
鹿苑寺大書院障壁画 若冲 承天閣美術館
芭蕉に月が描かれた障壁画《月夜芭蕉図床貼付》の方は、日本の月夜というよりはどこか南国を思わせるような異国情緒を感じさせる不思議な作品となっています。

若冲の肖像画も展示されていましたが、こちらは明治期に想像によって描かれたもの。
真の若冲の姿は謎のままということですね。
一体どのような顔をしていたのか、そしてどのような体勢と筆使いであれほどの緻密な絵を描いていたのか、
興味は尽きません。

障壁画の間を抜けて寺の至宝である茶器や不動明王像(重要文化財)の脇を通り、展示室を奥へと進むと、今回の展示の目玉ともいえる初公開作、《鸚鵡牡丹図》が現れました。

承天閣美術館 若冲展 後期 チラシ

このとき、幸いなことに作品の前には誰も立っていませんでした。
さっそく懐から単眼鏡(モノキュラー)を取り出して若冲特有の高精細な描写を楽しみます。
白いレース編みのような繊細な線が無数に走る羽の描き方はまさに若冲ならではです。
単眼鏡を絵の各部に向けながらその神がかった描写力に酔いしれます。
この作品とこうして向き合えただけでも京都まで来た甲斐がありました。

ミクロの視点だけではなく、マクロの視点から作品全体を眺めても、くすんだ背景に鸚鵡の白と牡丹の葉の緑、花弁の紅が互いに響き合い、画面全体が鮮やかに輝くばかりです。若冲の色彩感覚の確かさが改めて実感されます。

その他の展示作品としては、《群鶏蔬菜図押絵貼屏風》、《菊虫図》、《松亀図》など。
《群鶏蔬菜図押絵貼屏風》に描かれた大根の上に乗って羽を左右に広げて居丈高なポーズをとる鶏の姿とその得意げな表情に我々人間社会の風刺を見たのは私だけでしょうか。

《松亀図》の亀甲を単眼鏡で観てみると、細かい文様が筋目描きによって美しい層を為していることが分かります。

《菊虫図》も花の細部へと単眼鏡を向けると蟷螂の他に茎や葉のあちこちに小さな蟻の姿を確認できます。
さすが若冲。細部の描写まで妥協は見られません。


ひと通り作品を観覧し終えた後はチケット売り場脇のグッズコーナーへ。
封筒入りの絵はがきセット、《鸚鵡牡丹図》を印刷した竹のはがき、そしてこちらも竹でつくられたマグネットを購入しました。
鹿苑寺大書院障壁画 はがき 解説付き

承天閣美術館 若冲 グッズ 竹はがき マグネット

承天閣美術館を後にすると、寺内の墓所にある若冲の墓へお参りしました。
こちらの墓には若冲の遺髪が納められており、その亡骸は晩年に身を寄せた石峰寺の墓に土葬されたということです。
相国寺 若冲 墓 藤原定家

写真を見てもお分かりの通り、若冲の左手に並ぶ足利義政と藤原定家の墓もまた凄いですね(本当の墓かどうかは別として)。
墓所には幕末に命を落とした長州藩士達も埋葬されています。

相国寺 若冲 墓 碑文

若冲の墓石の裏側です。
墓石には生前親交のあった大典和尚による若冲の生涯を要約した碑文が刻まれています。
経年による汚れや苔がはり付いていて所々よく読めませんが、この碑文が若冲研究の第一級資料となっています。

相国寺を後にすると、地下鉄烏丸線に乗り、再び京都駅へ戻ってきました。
さらにJR奈良線に乗って二駅先の稲荷駅にて下車。
伏見稲荷神社の巨大な鳥居を横目に見送りつつ駅前通りを右手へ。踏切を渡ります。
スマートフォンの地図を片手に進むと、やがて道路上に下のような標識が見えてきます。

石峰寺 案内 標識 京都 若冲

表記通りに進むと、石峰寺の入口の階段が見えてきました。
階段脇には「五百らかん」と刻まれた石碑とお寺についての解説の記された立て札が。

石峰寺 入口 階段 京都 若冲

石峰寺 表札 京都 若冲 五百羅漢

解説にもあるとおり、天明の大火により被災し、家を失った若冲はやがてこの石峰寺に身を寄せ、ここに庵を設けて終の棲家とします。晩年もその創作意欲は衰えることなく、寺内の裏山に自らの下絵をもとにした一千体を超える石の羅漢像や仏像を造って配置し、ブッダの誕生から死までの壮大な物語を表現しました。
天然石に最低限の加工を施して石像としているために風化が進み、今では530体ほどを数えるのみとなっています。仏像とはいえ、風雨に穿たれ、苔生し、自然へと還っていくことこそまさに仏教の説く諸行無常、輪廻転生と考えていたのでしょう。

階段を上がると優美でいてどこか可愛らしいかまくら型の朱塗りの門が見えてきました。

石峰寺 門 入口 京都 若冲

門の脇には立て札があり、五百羅漢像の写真撮影およびスケッチはご遠慮願うとのこと。
がっかりしつつも気を取り直して門をくぐります。

門をくぐって左手の家屋が受付になっており、そこで拝観料の300円を支払い小冊子を受け取ります。
そこから先に進むと細い道が左右に分かれています。「伊藤若冲の墓」の表札にしたがって右手の坂を上がると墓地となっており、その見晴らしの良い坂の中腹に立つ墓石の下に若冲の亡骸が眠っています。
墓の隣りには絵師として生涯を全うした若冲らしく筆塚も建てられています。

石峰寺 墓 筆塚 京都 伊藤若冲

石峰寺 墓 京都 伊藤若冲

石峰寺 墓 筆塚 京都 若冲

お墓のお参りを済ませると左手の道を上がります。
道の先は小山の中を通る一本道となっており、左右の林の中に埋もれるように群れ立つ石の羅漢像達に導かれながらブッダの誕生から死までを辿ります。羅漢像はどれも皆、実に個性的かつ豊かな表情をしており、思わず笑ってしまうほど滑稽で愛くるしい表情の羅漢もいました。拝観者は私の他には誰もいませんでした。誰もいない静かな空間で、木々が風にそよぐ度に揺れる木漏れ日をその額に映す苔生した羅漢像を眺めていると、いつしか心が休まり、森羅万象の生々流転、宇宙の始まりと終わりなど、仏教という一宗教をも超越した壮大な時空と一体となっている自分を想起しました。
若冲が心に抱き、その人生の最後に辿り着いたであろう創作の真の意味がほんの一瞬ですが垣間見えた気がしました。


羅漢像を拝観した後は受付にて石峰寺オリジナルの御朱印帳を購入。御朱印も頂きました。

石峰寺 御朱印帳 表紙 若冲

石峰寺 御朱印帳 御朱印 若冲

若冲の命日である9月10日には毎年、慰霊祭が行われ、その際にお寺の所有する若冲の墨絵が公開になるそうです。そのときにまた伺いたいと思います。

石峰寺を後にすると、再び京都駅に戻ってきました。
そのまま京都国立博物館にむかいたいところですが、手荷物が邪魔なのと一服したいこともあり、少し早いですが、駅前のホテルにチェックインしました。
部屋に荷物を置いて、シャワーで汗を流してリフレッシュした後、単眼鏡をポケットに入れ、手ぶらで博物館へとむかいます。

バスに乗るのも億劫なので、博物館まで歩いてみることに。
少し距離はありましたが、夕暮の京の街は風情があって楽しめます。
彼方に紅葉した山が見えるのも東京都心にはない景色ですね。
夕闇の迫る加茂川も美しい。

加茂川 京都 冬 夕暮れ

さて、博物館に到着しました。

京都国立博物館 若冲 生誕300年 特集展示

京都国立博物館 若冲 生誕300年 特集展示 外観

来訪した日は土曜日。
京都国立博物館は毎週金・土曜日は夜間延長により午後8時まで開館していますので、
作品をゆっくり鑑賞したい方はおすすめです。
館内の撮影はNG。

入口を入るとインフォメーション・デスクの上に置かれていた「若冲展」のチラシを手に一路、展示室を目指します。

生誕300年 特集展示 若冲 チラシ

2017年の干支は酉ということで、若冲作の他にも鳥を描いた絵画が展示されていました。
雪舟の描いた《四季花鳥図屏風》も見事な出来栄えでしたが、やはり若冲の描く鶴に比べると美しくはあるのですがどこか形式に流れ、生命の息吹や躍動が弱いと感じます。その原因はやはり若冲特有の線の一本一本にまで自らの生命を吹き込んだかのような執拗なまでの羽や脚の細密描写に比べ、雪舟の描く鶴は細部へのこだわりを持たず全体のバランスを重視して描かれているためだと思われます。
まあ、好みの問題ではあるのですが、若冲の細密描写に目が慣れてしまうと、雪舟ほどの大家といえどどこか見劣りしてしまうのは仕方がないのかもしれません。

2016年の4月に行われた東京都美術館の若冲展が《動植綵絵》をメインに据えた代表作目白押しだったのに対し、今回の京都国立博物館の展示は墨絵をメインにしていました。
一見すると華やかさという点で劣るようにも思えますが、伊藤若冲という絵師の作風の多彩さと奥深さを存分に楽しむことのできる展覧会となっていました。

館内はそれほどの混雑もなく一点一点の絵画をじっくり堪能できます。
東京展があまりの盛況で4時間待ちという大混雑だったために展示替え後の再訪ができず、見逃してしまった《果
蔬涅槃図》もこの機会に思う存分観ることができました。

《百犬図》も一頭一頭、その愛くるしい表情を楽しむことができます。


先ほど訪れた石峰寺を若冲が描いた幻想的な墨絵も展示されています。
実際の寺の風景と比べてみると面白いです。

本邦初公開となる《六歌仙図押絵貼屏風》も必見です。
在原業平や小野小町など名だたる歌人達の特徴を見事にとらえ、大胆かつシンプルに墨書きされています。
何とも言えない漫画的な滑稽さがただよい、思わず笑ってしまいました。

《蝦蟇河豚相撲図》にも見られるように、若冲という人物は孤高の天才というよりはとてもひょうきんな一面も持ち合わせていた人物であることが作品を通して伝わってきます。

観覧後はミュージアムショップにて図録を購入。
東京展に比べるとページ数は少ないですが、読み切るにはちょうど良いサイズではないでしょうか。
生誕300年 特集展示 若冲 図録


さて、「若冲ゆかりの地を訪ねて京都へ その①」はここまでです。

後半は次の「その②」へと続きます。


ちなみに今回の旅では新幹線の中で下記の書籍を予習がてら読みました。
文庫サイズながら《動植綵絵》もカラーで収録されているのでお勧めです。

若冲 (講談社学術文庫)
辻 惟雄
講談社
2015-10-10



下記の大型本2冊をご紹介。値は張りますが、どちらも印刷は素晴らしい出来栄え。
本物は所有できないので、こちらで若冲の高精細筆致を存分に堪能するのも手かと……。

伊藤若冲 動植綵絵 全三十幅
東京文化財研究所
小学館
2010-01-25



伊藤若冲大全
伊藤 若冲
小学館
2002-11

「若冲ゆかりの地を訪ねる旅」の2日目。
早朝の錦市場、若冲の生家跡からスタートです。
京の台所とも称される錦市場で若冲は青物問屋の長男として生を受けました。
今現在、その生家はなく、跡地に下の写真のような看板が設置されています。

錦市場 伊藤若冲 生家跡 看板

錦市場 伊藤若冲 生家跡 看板02

錦市場 伊藤若冲 生家跡 解説

さて、それでは市場の奥へと入ってみましょう。
入口にも若冲の絵を基にした大きな横断幕が下がっています。
若冲生誕300年を祝っている様子。

錦市場 アーケード 商店街 若冲 生誕300年 入口

カラフルなアーケードが美しいですね。

錦市場 アーケード 商店街 若冲 生誕300年

頭上には若冲の生誕300年を祝う旗が掲げられています。

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 10

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 09

まだ朝が早いということもあってどの商店にもシャッターが下りていました。
そのシャッターにはなんと若冲の名作の数々が。
若冲の描く動植物が歴史ある商店街の景色に見事に馴染んでいました。

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 19

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 18

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 08

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 17

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 07

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 06

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 16

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 05

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 04

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 15

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 14

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 13

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 12

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 03

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 11

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 10

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 09

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 07

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 06

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 05

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 04

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 03

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 02

錦市場 若冲 シャッター 商店 生誕300年 01

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年 02

錦市場 若冲 旗 アーケード 生誕300年

商店街の突きあたりには鳥居がありました。
錦天満宮の入口です。

錦天満宮 京都 鳥居

よく観ると鳥居が左右の建物の壁にめりこんでいます。
たとえ神社の鳥居であろうと自分達の土地を譲ることはありません。
少ない土地を最大限に有効活用しようとする商人達の逞しい精神を感じさせます。

錦天満宮 京都 鳥居 ビル めりこむ 左

錦天満宮 京都 鳥居 ビル めりこむ 右

錦天満宮 入口 京都


錦市場を抜けると、そのまま徒歩にて宝蔵寺へと向かいます。
その途中にある坂本龍馬・中岡慎太郎遭難の地(近江屋跡)を訪れました。

坂本龍馬 中岡慎太郎 遭難 近江屋 跡02

坂本龍馬 中岡慎太郎 遭難 近江屋 跡

その跡地も現在ではかっぱ寿司になっています。
時代の流れを感じますね。

坂本龍馬 遭難の地 かっぱ寿司 近江屋跡

近江屋跡を通過し、そのまま河原町通を直進した後、交差点を左折し、細い通りをさらに進むと宝蔵寺に到着。
午前10時から開門と同時に一日限定40冊というオリジナル御朱印帳が販売されるとのことでしたが、
驚くことに午前9時を少し過ぎた時点で既に15人ほどの行列ができていました。
並ぶ場所がちょうど日陰になっているせいか並んでいると深々と体が冷えてきます。
冬場に1時間以上並ぶのは肉体的にちょっとキツイかもしれません。
それでもどうしても御朱印帳を手に入れたいという方は、防寒対策およびなるべく直前にトイレを済ませておくことをおすすめします。
御朱印帳の販売数は日によって変動があるので、来訪する予定の前日に宝蔵寺のWebサイトにて確認をお忘れなく。

午前10時になると開門となり、並んでいた人々が次々と寺内へ入っていきます。
御朱印帳の他にも若冲作品をモチーフにしたトートバッグやTシャツ、髑髏を模った数珠などのグッズが売られており、
「うーむ……商魂逞しいというか、若冲のおかげでお金が儲かって住職は笑いがとまらないだろうな……」と何とも複雑な気分に。
これらのグッズがミュージアムショップで売られている分には違和感はないのですが……。
まあ、現代におけるお寺の経営もひとつのビジネスととらえれば違和感はないのかもしれません。

とはいえ、せっかく寒い中、時間をかけて並んだので何も購入せずに帰るというのももったいなく感じ、御朱印帳を購入しました。購入した時点で既に中には御朱印が押されていました。

宝蔵寺 御朱印帳 若冲 表紙

宝蔵寺 御朱印帳 若冲 御朱印 生誕300年

寺内には若冲親族の墓もありますので参拝をお忘れなく。

宝蔵寺 若冲親族 墓02

宝蔵寺 若冲親族 墓01


宝蔵寺を後にすると、徒歩にて建仁寺へ。
両足院にて冬の特別公開として伊藤若冲筆《雪梅雄鶏図》が期間限定で公開されています。

建仁寺 両足院 若冲 特別公開

室内の撮影は残念ながらNGですが、庭を撮影することはOKでした。

建仁寺 両足院 若冲 特別公開 庭03

《雪梅雄鶏図》はガラスの覆いもなく、室内の床の間に掛けられていました。
絵の傍には係員が立っています。
じっくり絵を鑑賞しようとしたのですが、この係員の方が思いのほかおしゃべりで、
「枝にとまるあの鳥はウグイスだと思うか?」とか「あの花は椿だと思うか?」などといちいち話しかけてきて
その度にスマートフォンでグーグル検索した実物の写真を見せられ、
とても集中して絵を観るということができなかったのはとても残念でした。

若冲の絵と向き合う際は、その絵が自然界に実在する何を精確に描き表しているかなどは大した問題ではないはずです。
若冲の絵はその余りの高精細な筆致のために勘違いされることも多いのですが、必ずしも森羅万象を精確にリアルに写し取っただけの模写ではありません。
そこには意識的にせよ無意識的にせよ若冲というフィルターを通した彼特有のアレンジが必然的に挿入されています。
ただ素直に絵と向き合い、画狂とも言い得る若冲の尋常ならざる筆致に純粋に酔いしれれば良いと私は思っています。

「私はガラスの代わりにここに立っている」と係員の方はなぜか得意げに仰っておられましたが、
ガラスの方が余計な私語をしない分、はるかにマシだと思いました。
もう少し鑑賞のマナーを弁えた方が係員として絵の傍に立たれることを希望します。
そのようなことを口に出して喧嘩をするのも大人気ないので早々に退散しましたが……。


さて、若冲ゆかりの旅も終りに近づいてきました。
若冲とは関係ありませんが、彼が生きていたらさぞかし興味を惹かれたであろう施設、京都水族館へ。

京都水族館 入口

何といってもオオサンショウウオの水槽は必見です。
若冲ならこの水槽を眺めて果たしてどのようなオオサンショウウオを描いたことでしょうか。

京都水族館 オオサンショウウオ

若冲の《動植綵絵》中にある《群魚図》も、これらの生きて泳ぐ魚達を実際に目にしたなら
もっと違う絵になっていたかもしれません。

京都水族館 館内02

京都水族館 館内01


ご興味を抱かれた方は是非。


今回の旅で訪れた「生誕300年 若冲展」が下記の雑誌にて特集されています。
付録には今回観覧した両足院の《雪梅雄鶏図》のクリアファイルが付いているので購入はお早目に。




行ってまいりました。
ふたつの柱 江戸絵画/現代美術をめぐる チラシ オモテ
ふたつの柱 江戸絵画/現代美術をめぐる チラシ 裏

今年は伊藤若冲生誕300年ということで、日本各地で若冲作品の展示を楽しむことができます。
東京都美術館の異常ともいえる激混みぶりに今回の鑑賞を見送られた方も多いのではないかと思います。

6月1日から千葉市美術館で同館が所蔵する若冲の墨絵《雷神図》、《寿老人・孔雀・菊図》、さらに木版摺《乗興舟》が展示されるということでさっそく鑑賞に。

JR千葉駅の東口から徒歩で美術館へむかいました。
駅前のバスターミナル前からぐるりと右手へ進むと道々に美術館への案内標識が現れます。
この赤い標識に従って15分ほど歩くと迷うことなく美術館へとたどり着くことができました。
千葉市美術館 道案内 標識01

千葉市美術館 道案内 標識02

千葉市美術館 道案内 標識03

千葉市美術館 道案内 標識04

千葉市美術館 建物 外観 ふたつの柱 江戸絵画?現代美術をめぐる

チケット売り場と第1展示室は8階です。
エレベーターで向かいます。

一般料金は200円。安いですね。
道案内の標識と同じ色の赤いチケットを受け取ります。

館内の撮影は禁止。
開館時刻である午前10時少し前に着いたのですが、観覧客は自分をふくめて2、3人しかおらず、
貸し切り状態のような静かな館内を進みながら作品鑑賞を堪能できました。

同美術館の所蔵する江戸絵画と現代美術のコレクションをひとつの空間に同時に展示するという展示方法が実に斬新で、作品たちが不思議な調和を奏でながら観る者を美の世界に誘います。
まさに展覧会のタイトルにあるとおり時間も空間も超えた美をめぐる旅でした。

中でも美人画で名高い喜多川歌麿が挿し絵を描いた《画本虫撰》の美しさに目を奪われました。
幕末の土佐の絵師として名高い河田小龍の絵画も初めて目にしました。

若冲の墨絵《雷神図》には意表をつかれました。
伊藤若冲の絵というとあの超絶技巧と細密描写ばかりが頭に浮かび、少し身構えてしまっていたのですが、
この《雷神図》は実に可愛らしい墨絵です。
童子のような雷神が太鼓を片手に暗雲から雷とともに真っ逆さまに空から落ちてきています。
そのおどけたような少しとぼけた表情がなんともいえず愛くるしい。
こんなにコミカルな絵も描ける若冲の表現の幅の広さには唸るばかりです。
一見勢いにまかせて描いているようですが、太鼓の木目の美しさや雷神の腕や脚の描写の巧みさ、黒い一陣の風のような雷雲の描写など若冲らしさも光っています。

その隣りに展示されていた曾我蕭白の《獅子虎図屏風》の自由闊達かつ迫力ある筆さばきとまるで漫画の原点のような滑稽さは観る者を釘づけにします。東京国立博物館で開催されていたボストン美術館展でかつて観た《雲龍図》の素晴らしさがふと脳裏をよぎりました。奇想の絵師の二大競演ともいえるこの展示室を去りがたく、しばらく留まってしまいました。

もうひとつの若冲の墨絵、《寿老人・孔雀・菊図》では筋目描きという技法を観て楽しむことができます。
「筋目描き」とは、紙(絹本)の上で墨と墨をぼかした際に隣り合う墨同士が自然につくり出す境目を利用した絵画技法のことで、若冲はこの技法を使って鳥の羽を描くことを好みました。特に孔雀図の羽と羽の境目に細く残った白い糸のような美しい余白にご注目いただけるとこの技法の素晴らしさがわかっていただけると思います。

さらに若冲が画を手掛けた木版摺りの《乗興舟》ですが、こちらは最後の展示室の出口付近に展示されており、私が訪れたときは誰もいなかったために間近で見放題でした。東京都美術館では人だかりが凄くて近くでとても観れなかったという方はこの機会にじっくりと鑑賞できるのでオススメです。

そして、私が特に興味を惹かれた現代美術作品は、
ダン・グレアム氏の《円形の入口のある三角柱(ヴァリエーションE)》という作品です。
これは葛飾北斎の《冨嶽三十六景》や円山応挙の《富士三保図屏風》とともに広い室内の只中に展示されているのですが、それぞれの三角柱の面には巨大な丸い鏡がはめ込まれており、そこに映る空間の変化を鑑賞者が体験することで自らの空間認識に揺さぶりをかけるという作品で、思わず頭に「?」を浮かべたままその周りを何度も巡ってしまいます。

さて、作品鑑賞を終えると、展示室の入口で手に取った「鑑賞カード」を8階の受付に返却し、簡単なアンケートにこたえると下記のような缶バッジ(※写真は若冲の《孔雀図》ですが、数種の中から好きなものをひとつ選ぶことができます。)が景品としてもらえます。
「鑑賞カード」というのは、今回の展覧会をより楽しんでもらおうと美術館が企画・制作したカードで、展示室の所々に貼られた目印を探しながら案内にしたがって作品を鑑賞してゴールにたどりつくという簡単なオリエンテーションです。対象年齢が小学校3年生以上とカードに明記されていたので、基本はお子様向けですが、大人でも十分楽しめます。お時間に余裕のある方は挑戦してみると、より作品鑑賞が楽しめるかもしれません。
ふたつの柱 江戸絵画/現代美術をめぐる 缶バッジ 若冲

以下はミュージアム・ショップで購入したグッズです。

まずは《雷神図》のロングサイズのポストカードから。150円。
伊藤若冲 雷神図 千葉市美術館 グッズ ポストカード


さらに今回の展示作品である《獅子虎図屏風》のグリーティング・カード(左)と喜多川歌麿の《画本虫撰》の復刻豆本(右)。
千葉市美術館 グッズ 曾我蕭白 獅子虎図屏風 画本虫撰 豆本


ご興味を抱かれた方は是非。

千葉市美術館Webサイト
http://www.ccma-net.jp/

行ってまいりました。

生誕300年記念 若冲展 チラシ 表

昨日(4月22日)が開催初日ということで、
どれくらい混雑することやらと不安と期待が入り混じりつつ会場に到着(PM6:30くらい)。
入場待ちの行列はありませんでしたが、会場内はやはり激混み状態でした。

美術展は入口付近が最も混み合うことが多いので、地階の作品鑑賞は潔く後回しに。
展示作品を人垣越しにチラチラ眺めつつ地階の展示室を出てエスカレーターを使って1階へ。

1階の展示室はさらに人で溢れていました。
それもそのはずです。
その楕円形の展示室のガラスケースのむこうには《動植綵絵》30幅と《釈迦三尊像》3幅が
ズラリと掛けられていたのですから。

ガラスケースの前には黒山の人だかりができ、肝心の絵がよく見えません。
他の企画展の目玉展示物のように絵の前にロープを張って通路を設けて、
立ち止まらないように促しながら鑑賞させることもしていないため、
人垣もなかなかガラスケースの前に留まったまま動きません。
スタッフが遠くの方から「歩きながらの鑑賞をお願い致します」と小さな声をかけてはいますが、
会場内のカオスにかき消されてしまい何ら効力を発揮していませんでした。

いくら遠目から眺めていても、若冲の細部にわたる超絶技巧を堪能することは肉眼では難しいでしょう。

そこでこれから鑑賞に行く皆様にお勧めしたいアイテムが、
モノキュラー(単眼鏡)です。
4倍ほどの倍率のものが手ブレのストレスもなく、
すぐに観たいものにピントが合わせられて使いやすくオススメです。





今回、私も初めて上記のモノキュラーをAmazonにて購入・持参したのですが、
これほど役に立つとは予想していませんでした。
とても小型なのでポケットにも入りますし、レンズも明るく、
薄暗い展示室内の鑑賞に威力を発揮してくれました。

ただ、遠目からでもレンズを覗いていると前を忙しく人が通り過ぎて視界が遮られます。

やはり、何としても側で観たい。

ということで、楕円形のガラスケースの端に自然発生的にできた列の最後尾に並ぶことに。
誰もが身を乗り出して若冲の緻密な描写をじっくり眺めているため、
列は遅々として進みませんが、そこは日本人の礼儀正しさが功を奏し、
少しずつではありますが、前へと人が流れていきます。

ガラスケースの前には膝より少し高いくらいの敷居が設けられているので、
いくら身を乗り出しても、絵の細部までを観ることは困難です。
ここでも大活躍したのが、モノキュラーです。

モノキュラーのレンズを通して観ると、若冲の緻密すぎる(!)描写に深い感動を味わえます。
色彩の鮮やかさと構図の大胆さも鑑賞者の心をとらえて放さないのですが、
注目すべきは人間技とは思えない細部にわたる緻密な描画です。
鳳凰の羽根の一筋一筋の描写はレースのように繊細で美しく、
鶏のトサカや目の周り、脚には人間の手が施したとは思えないほどの小さな点描が無数に見られ、
おもわず鳥肌がたち、「何だこれは!」と幾度となく心の中で叫びました。
まさに「画狂」という言葉がしっくりくるほどに一切の妥協を許さない超高精細、高密度の描写に溜め息の連続です。
画集では決して味わえない実物と対峙してこその体験と感動でした。

私が絵画を鑑賞して心の底から驚嘆したのはこれが初めてです。

およそ10年という歳月をかけて、これほどの高い集中力を持続させて大作を完成させた
若冲の精神力は神がかっているといっても過言ではありません。

閉館時刻の20:00ギリギリ(最後は警備員の方々に「どうかご理解ください」と追い出される)まで、
出口付近の《鳥獣花木図屏風》を眺めつつ、後ろ髪引かれる思いで展示室を後にしました。

その後はグッズ売り場へ。
ここもやはり激混み。

グッズは一通り眺めたところ、
定番の図録、ポストカード、一筆箋、缶バッジ、クリアファイル、マグネット、しおりはもちろんのこと、
マグカップ、扇子、エコバッグ、トートバッグ、Tシャツ、手拭い、胡粉ネイル(若冲がまだ三十代だった頃、宝暦元年から、胡粉を主に扱う日本絵具専門店として京都の東洞院通に店を構えていた「上羽絵惣」製。胡粉や自然由来の顔料を使用した水溶性のネイルカラーは爪に負担が少なく、臭いがほとんどしない。《鳥獣花木図屏風》からイメージした10色の特別パッケージ。〈以下、カッコ内解説は〈公式サイトより引用〉)、団扇(動植綵絵の京うちわ。全6種、各50本、合計300本の完全限定製作品。若冲が生まれた三百年前から京都で団扇を作り続けている《小丸屋住井》に特注した、展覧会限定・特別製作の京うちわ。扇面と持ち手が別々に作られる手法がその特徴。)、瓶入りの日本酒(若冲が生きた300年前には既に伏見で創業していた、老舗の酒造所「山本本家」の純米酒をオリジナルボトルに。正面から見た時に白象と重なる升目が正方形に見えるように、裏側には縦長の升目をプリント。焼き付け加工済みのボトルのため、飲み終わった後も洗浄して使用可能。)、《鳥獣花木図屏風》に登場する白い象のナノブロック(会期中5,000個販売予定。)などバラエティーに富んでいました。

会計待ちの長蛇の列に辟易としつつ、やっとのことで図録とナノブロックを購入。
生誕300年記念 若冲展 図録 グッズ ナノブロック

図録は生誕300年記念に相応しい豪華な装丁と内容です。もちろん、今回の展示作品も網羅されています。
生誕300年記念 若冲展 図録
生誕300年記念 若冲展 グッズ 図録 中身 鳳凰


ナノブロックは渋い緑とらくだ色の二種類の巾着に入っており、表面には「若冲」の文字がブロック状に表記されています。
生誕300年記念 若冲展 グッズ ナノブロック アップ

生誕300年記念 若冲展 図録 グッズ ナノブロック 札

生誕300年記念 若冲展 グッズ ナノブロック 巾着 ロゴ


巾着を開いて中身を取り出します。
設計図もすべて手描きで凝ったつくりです。
生誕300年記念 若冲展 グッズ ナノブロック 中身 設計図

さっそく組み立ててみました。
生誕300年記念 若冲展 グッズ ナノブロック 象 正面
生誕300年記念 若冲展 グッズ ナノブロック 象 右斜め
生誕300年記念 若冲展 グッズ ナノブロック 象 左側面
生誕300年記念 若冲展 グッズ ナノブロック 象 背後
生誕300年記念 若冲展 グッズ ナノブロック 象 頭上

ちなみに、図録だけを購入したい方はグッズ売り場の会計に並ばなくても
エスカレーターを降りてすぐの1階の書籍売り場でも購入可能なので、
そちらを利用した方が時間と労力の無駄使いを避けることができるのでオススメです。

開期が1ヶ月と短く、今後の更なる混雑が明らかでも、何とかもう一度訪れたい、もう一目だけでも見たい、そう強く思わせる展覧会でした。

5月10日から一部作品の展示入れ換えが行われる予定なので、可能ならばもう一度、足を運びたいと思います。


ご興味を抱かれた方は是非。

生誕300年 若冲展 公式サイト
http://jakuchu2016.jp

生誕300年記念 若冲展 チラシ 表
生誕300年記念 若冲展 チラシ 裏

2016年4月22日から5月24日まで
東京都美術館にて「若冲展」が開催されます。
たった1ヶ月のみの開催期間ですが、
若冲の生誕300年を記念して初期から晩年までの代表作約80点が展示されます。

若冲が京都・相国寺に寄進した《釈迦三尊像》3幅と《動植綵絵》30幅が
東京で一堂に会するのは初のことです。

何とも開催が待ち遠しいのですが、
開期中は凄まじい混雑が予想されます……。
それを思うと気が滅入るのですが、
ここで《動植綵絵》が生まれた背景について
チョコっとまとめてみました。

展覧会をさらにお楽しみいただく一助となれば幸いです。

伊藤若冲と《動植綵絵》
1639年に徳川幕府の鎖国政策が完了し、以後は長崎の出島を通じて中国とオランダの二国のみが海外文化の流入先となった。中国からもたらされた本草学と南蘋画が流行する時代に生を受けた伊藤若冲(1716~1800)は家業よりも禅と絵画にのめり込み、相国寺の禅僧、大典顕常と交友を結び、37歳で若冲居士を号した。京都・錦小路の青物問屋「桝源」の家督を40歳で弟の宗巌に譲り、その後は画業に専念する。若冲の寿蔵に刻まれた大典和尚の碑文によれば、当初は狩野派に弟子入りし、その後、宋元画を模写するが、自らの理想とする絵画には辿り着けないと悟るや、鶏を庭に放し飼いにし、その生態を数年にわたって観察した後に初めて草木や他の鳥、魚や虫を描く術を心得たという。若冲は約10年の歳月をかけて30幅の彩色絹本画である《動植綵絵》を完成させた。そこには驚異的な細密描写と鮮やかな色彩により、動植物の姿が刻銘に描かれている。客観的な写実というよりも、その偏執的ともいえる細部の超絶描写は自らの生涯を捧げて森羅万象を描き出し、後世に遺したいとする若冲の気迫が漲る。南蘋画の影響を受けたであろう余白を排するその画面は息苦しいほどの無数の動植物と色彩に溢れている。

ご興味を抱かれた方は是非。
「生誕300年記念 若冲展」公式サイト
http://jakuchu2016.jp

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