行ってまいりました。
ルノワール展 チラシ ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会
ピエール・オーギュスト・ルノワールの傑作として名高いオルセー美術館の至宝、《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》が初来日ということでさっそく鑑賞に伺いました。

画家の初期から晩年までの歩みを作品を通して辿ることのできる今回の展覧会。
一人の画家の絵を描くことに対する飽くなき情熱と探求を感じることのできる構成となっていました。

ルノワールという画家は正直に申し上げまして
私自身、それほど好きな画家ではありませんでした。
明朗で平和な画面は確かに観ていて清々しく美しくはあるのですが、
芸術特有の甘美かつ妖しい毒気がないというか、いまいち中毒性に欠けるというか……。

ゴッホのような深い孤独と哀切も、ゴヤの《我が子を喰らうサトゥルヌス》のような人間の心の闇に巣食う獣性も
ルノワールの創り出す絵画には皆無です。
「後ろめたいこともなく老若男女が安心して観ることのできる健全な絵」という印象でした。

もちろん「明朗かつ健全な絵」という印象は今も変わらないのですが、
邪悪さや毒性を画家自身があえて作品から除去しているという事実を知ったことで、
自身の浅いモノの観方を大いに恥じると同時にルノワール作品の印象がガラリと変わりました。

「世の中は辛く悲しいことばかりだ。だったら絵画が楽しく、幸福に満ちていて何がいけない?」
そのような主旨のことをルノワールは言っています。
ルノワール自身も40代後半からリウマチに体を蝕まれ、晩年は車椅子での生活を余儀なくされ、
動かなくなった手に絵筆を括りつけて創作を続けたといいます。

「幸福に満ちた作品」を創作している人の人生が必ずしもその通りであるとは限らない。
むしろ逆であることの方が多いのかもしれません。
創作活動の奥深さというものをルノワールに教えられました。

さて、今回の展覧会に話を戻したいと思います。
何といってもまずはお目当ての《ムーラン・ド・ラ・ギャレット》。
会場は連休初日にもかかわらず空いていたので、入口から順番に鑑賞してもよかったのですが、
一番観たい作品を目指して一直線に館内を進みます。
ルノワール展 ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会
今回、実物をはじめて目にしたのですが、まず感じたのが「青が美しい」ということ。
画面の所々に落ちた木漏れ日の美しさは言わずもがなですが、
明るい陽光の下で開かれた舞踏会の賑わいを描きだす画面が所々に配置された人々のまとう服の青のヴァリエーションによって引き締まり、美しい調和をなしていました。
人物配置も一見雑多に見えて、中央にいる人物の形成する三角形の安定した構図やあえて画面を途中で断ち切ることで奥行きを表現するなど、鑑賞者の視線を自然に絵の中へ誘導するような高度な計算が随所に見られます。まさに名画と言われる所以ですね。

その向かいの壁には、二枚の大作(本来は三枚連作)の《都会のダンス》、《田舎のダンス》が展示されていました。
ルノワール展 都会のダンス 田舎のダンス
これらの絵画は《ムーラン・ド・ラ・ギャレット》に観られるような印象派特有の光の表現はなく、古典主義的な手法で描かれています。この時期、ルノワールは自身の芸術に行き詰まりを感じていました。人物画家のルノワールにとって、印象派の光の表現では人物が背景の中に溶け込んでしまい、存在感と肉感をもった人物を描くことが難しいことに苦悩を深めていたといいます。この《ダンス》連作はルノワールにとって、自身の絵画表現の転換期となる記念すべき作品です。
これから鑑賞に行く皆さまも《ムーラン・ド・ラ・ギャレット》との表現法の違いを是非お楽しみください。

ちなみにこの二人の女性のモデルですが、
左の《田舎のダンス》の扇子片手に楽しげに微笑む女性は当時ルノワールと恋仲であり、後に妻となるアリーヌ・シャリゴがモデルと伝えられています。
一方の《都会のダンス》で洗練された白いドレスをまとう美女は後にユトリロを産む恋多き女、シュザンヌ・ヴァラドン。ルノワールは彼女の才能と美貌の虜だったといいます。
一説によれば、《田舎のダンス》のモデルもシュザンヌだったとか。アリーヌがあまりに嫉妬するので、ルノワールが仕方なく(?)アリーヌの顔に描き替えたといいます。
そういうエピソードの下に絵を観ると、たしかに《田舎のダンス》のアリーヌの微笑みが少し得意げに見えてくるから不思議です。

会場の奥に行くにしたがって、ルノワールの描く日常の美しい瞬間が次々と現れます。
ルノワール展 ピアノを弾く少女たち

会場の最後には、病に体を蝕まれながらも画家が最晩年に描き上げた大作《浴女たち》がお目見え。
自身の人生がどんなに辛く悲しい状況にあろうとも、ルノワールの筆から明朗かつ幸福な輝きが失われることはありませんでした。
ルノワール展 浴女たち

鑑賞後はグッズ売場へ。
今回の展覧会に合わせて製作された図録、箱入りのお菓子、猫のぬいぐるみ、マグネット、マスキングテープ、ポストカード、クリアファイル、一筆箋、ルーペ、ミニキャンバス、コップのフチ子さんとコラボしたミニフィギュアなどが目に留まりました。

その他には、《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》の世界に入り込んだような360度のヴァーチャルな3D空間を体感できる「ハコスコ」という商品が販売されていました。売り場には同製品のサンプルも展示されていて、体験版を試すこともできます。

結局、定番のポストカードを購入しました。
前売り券の特典である《ジュリー・マネ》の猫をイメージしたぬいぐるみも売場レジにて引換券と交換しました。
オルセー ルノワール展 グッズ ポストカード ぬいぐるみ


ご興味を抱かれた方は是非。

ルノワール展 公式サイト
http://renoir.exhn.jp/

この度、パリの美術館案内をAmazon Kindleにて出版致しました。
パリ旅行のお供に是非。



下記YouTubeサイトにて本の紹介動画も公開中です。