行ってまいりました。
アートたけし展 入口

「HANA-BI」や「アキレスと亀」など北野武監督の映画には
自身の描かれた絵画が登場します。
それが映画の世界観と一体となって、とても心に残っていました。
いつかぜひ実物を生で観たいとかねてより思っていたのですが、タイミングが合わず。
この度、それがようやく実現しました。

会場に入ると、そこに展示されているのは
たけしさん(ここでは、個人的な面識がないにもかかわらず、勝手な親しみと最上の敬意をこめましてあえて「さん」とお呼びすることをお許しください)自身の手がけられた絵画と立体作品、そして木版画です。

絵画は主にキャンバスにアクリル絵具で着彩したもの。
まず目を奪われるのがその色彩の鮮やかさです。
「この色とあの色を組み合わせるとこういう画面が出来上がるのか」と、
その色彩感覚の素晴らしさに唸ってしまいます。
一見シンプルかつ大胆に描いているようでいて、
細部(女性の服や靴のデザイン、車や動物の質感の描写など)は点描を効果的に施したりと
実に繊細かつ緻密で観飽きることがありません。
細部まで丁寧に仕上げるというたけしさんの細やかな性格がよく現れています。

私のお気に入りは街灯の下で抱き合う男女の横に現れたアリクイ(のような動物)が
その長い鼻をのばして女性のスカートをめくっている絵です。

男女のロマンティックな逢瀬に現れた一頭の巨大なアリクイが
瞬時にして笑いの場面へと変えています。
そのアリクイの惚けた表情と、
ブルーとイエローを主色とした夜の画面構成により、
何とも言えない優しい静けさと可笑しみに満ちています。
女性の下着の柄まで丁寧に描いているところはさすがです。
その赤が視線誘導の絶妙なアクセントになっています。

たけしさんの描く人物はときに顔半分が消えています。この絵に描かれた抱き合う男女も共に顔半分がありません。これは私の勝手な解釈ですが、たけしさんは人間という存在はそもそも不完全な存在であり、その欠落した部分を心に抱えた者同士が互いを補い合ってはじめて一人の人間になると考えているのではないでしょうか。
「絵を描いてるときはオイラ、そんな面倒なこと考えちゃいないよ」とたけしさんに一笑にふされそうな私の極めて個人的解釈ですが。


たけしさんの絵を観ているうちに
自分がいかにツマラナイ価値観に凝り固まって
世界を捉えているかを痛感しました。

絵とは、表現とは、
もっと自由で良いんだなと救われた気持ちになっている自分がいました。

たけしさんの絵には
上手く描こうとか、観る者を感嘆させてやろうといったイヤらしいあざとさや計算がありません。

子供の描く絵が大人のツマラナイものの見方や価値観を粉砕する無垢なエネルギーに溢れているように、たけしさんの絵にも素直で純真な力が炸裂しています。
狙ってできるものではありません。
まさに、天才です。

立体作品では、
メジャーを使った哲学的な作品に惹かれました。
長く伸ばしたメジャーを黒い絵具を塗ったキャンバスに貼り付けて、その所々に英語で誕生(Born)から死(DIE)までのたけしさんの過去と未来の出来事がカラフルに記されています。
つまり、メジャーの尺を自身の一生の時間に例えているわけですね。

さらに、
たけしさんの細部の装飾へのこだわりと優れた色彩感覚は、木版画という表現手法により、さらなる進化を遂げているように見受けられました。

私が思わずその場に立ち尽くして見入ってしまった木版画の作品があります。
それは、タンスの上に置かれた金魚鉢に手を伸ばす猫の姿をとらえたものです。

夏目漱石の小説世界のようなレトロで美しい調度品の置かれた室内のただ中で椅子に片足を乗せて金魚鉢へと伸び上がる白い猫。金魚鉢の中では金魚がふわふわと泳いでいます。

細かい畳の目やタンスの取っ手の装飾、壺の模様にいたるまで細部に一切の妥協なく彫り込まれています。多忙な合間を縫っての作業でしょうから、一体完成までにどれほどの時間を要したのだろうと想像して気が遠くなってしまいました。

今回の展示では、
特別にヴェネツィア国際映画祭でたけしさんが授与された金と銀の獅子像、さらにフランス政府から贈られた勲章も展示されていました。

出口付近には、記念撮影のできるスポットも設けられています。
「アートたけし展」会場内に設置された撮影スポット



以下の写真は展覧会図録とチラシ、そしてグッズのペーパーウェイトです。図録のカバーを広げると一枚の大判ポスターのようになっており、気に入った絵を表紙にすることもできます。その裏面はたけしさんの撮り下ろしポスターになっています。
ペーパーウェイトの図柄は版画作品「クジラ」と「玉乗りピエロ」です。
どちらもとても美しい作品だったので両方購入しました。
アートたけし展 図録、チラシ、グッズのペーパーウェイト



ご興味を抱かれた方は是非。

「アートたけし展」公式サイト
http://www.art-takeshi.com/