昨日(12月5日)、ルミネ池袋の8階にあるシネ・リーブルにて観賞してまいりました。

DSC_1638

オーストリアのモナリザとも呼ばれるグスタフ・クリムト作《アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I》。
その黄金に輝く名画には秘められた真実があったーー。

ストーリーは実にシンプル。
アメリカでブティックを営む一人の老夫人(マリア・アルトマン)が、
自らの祖国であるオーストリア政府を相手取り、
ナチスに略奪された名画の返還を要求するというものです。
実話を元に映画化しています。

場面転換は名画の所有権をめぐる訴訟のシーンと
アルトマン夫人の過去が交互に描かれます。

今年は美術品盗難事件をテーマにしたミステリーを執筆していたことと、
芸大の近現代美術史の課題テーマをナチスの開催した「退廃芸術展」にした関係で、
この映画のテーマは知識としてありました。
正直、それほど期待せずに映画館に行きました……が、やられました。

以下は【ネタバレ】になりますので、
まだ観ていない方はご注意ください。


オープニングの画家が淡い光の下で金箔を絵に貼るシーンから
その美しい画面に引き込まれます。
そして、生身のアデーレの登場。
実物の絵よりも癖のない綺麗な顔立ちです。
オーストリアだけにしっかりドイツ語を話しています。

続いて舞台は現代のアメリカのとある墓地に。
ヘレン・ミレン扮する喪服姿のアルトマン夫人が登場し、物語が動き出します。
亡くなった姉の棺桶に土がかけられ、そこにはユダヤの星が。
祖国を追われたユダヤ人の子孫であることを示すさり気ない演出です。
夫人はかつて実家の壁に飾られていた叔母の姿が描かれた名画を
オーストリア政府から取り返すべく、
葬儀に出席した友人の息子である弁護士を家に招きます。

この駆け出し弁護士ランディ役の俳優、ライアン・レイノルズが
登場時は見るからに頼りなげな優男で良い味を出しています。
実在の人物で、あの音楽家シェーンベルクの子孫です。

ランディは就職したばかりの法律事務所でボスの機嫌を窺いながら、
最初はそれほどの熱意もなくアルトマン夫人の名画奪還の手伝いをしています。

だが、彼はやがて夫人とともにウィーンに赴き、
ナチスによるユダヤ人迫害の過去と向き合うにつれ、
夫人よりも熱心に名画奪還に取り組み始めます。
最初は頼りなげだった青年弁護士が
オーストリア政府および美術館を相手に法廷闘争を挑み、
いつしか頼れる一人の男になっていく演出は実に見事。
思わず感情移入して胸が熱くなります。

そして、要所要所で挿入されるアルトマン夫人の過去の描写。
ゲシュタポから逃れて夫と共に街を疾走するシーンは
「何とか二人とも無事に逃げてくれ!」と思わずにはいられませんでした。

彼女の両親との別れのシーンで思わず涙腺崩壊。
あまり映画を観て泣くことはないのですが、見事にやられましたね。
「おまえの新たな故郷の言葉で語ろう」とドイツ語から英語に切り替え、
自らの死を悟りながら娘を笑って送り出そうとする父親の表情の演技は迫真でした。

そういった暗い過去を乗り越えての訴訟の勝利。
名画が無事、夫人の元に戻り、彼女は自らの負った深い心の傷と向き合う覚悟ができ、
自身がかつて暮らしたアパートの階段を上がっていきます。

そして、夫人の目の前にはかつての華やかだった頃の家族が現れ、
誰もが彼女に笑いかけます。
最後の部屋には《アデーレの肖像》と若く美しい姿のままのアデーレ自身が夫人を迎え、
映画は幕を閉じます。

美しい映像もさることながら、実に上質な見応えのある内容の映画でした。
ご興味を抱かれた方は是非。

「黄金のアデーレ 名画の帰還」公式サイト http://golden.gaga.ne.jp

さらに、
以下の書籍に目を通してから行かれると、この映画をより楽しめると思います。

まずは拙著(小説)から。
作中にナチスに略奪された美術品を回収するエピソードが出てきます。




以下はノンフィクションです。



「盗まれた世界の名画」美術館
サイモン・フープト
創元社
2011-08-22